決め手 のつづきです。

その日、彼の元に向かう時にはもう計画済みでした。

「今日彼を飲みに誘う」

今までずっと完全に受け身の恋愛しか
したことのない私。

いつだって誘われる側でした。

でも、今度ばかりはそうも言っていられません。

真面目な彼は、放っておいたら、
おそらく決して、
既婚者の私を誘ってくれることはないでしょう。

なので、今回は、私が動かなくては。

さあ、果たして、
今まで自分から男性を誘った経験が皆無の私に
彼を誘うなんてできるでしょうか…… 

そうこうしているうちに、
仕事は長引き、外は真っ暗に。
(家族の夕飯はちゃんと作ってきました。)

「じゃあまた」
と彼が言いかけたのに被せるように
「あの!今日、の、飲みに行かない?」
緊張して声が震えてしまう私。
「え?……いいけど。何食べたい?😊」
ちょっとびっくりしながらも、
即諾の彼。

きゃあ。
誘ってしまった!

ええい、もうどうとでもなれ!
(注:決して変な意味ではありません)

彼のリードに任せて、
居酒屋に入りました。

彼が馴染みのお店のようで、
メニューから美味しそうなものを
サクサク選んでくれて。

食事もお酒も美味しく進みましたが、
その間、彼はというと……

自分が働き出してから今日までの苦労話を
ベラベラベラベラベラベラ………

3時間ずっと喋り続けたのでした😓

今なら、彼がテンパったり照れたりしてる時に、
この『ベラベラベラベラ』状態になるってわかっていますが、
その時は、
「あ〜私に関心がないのね😢」
と、ちょっと寂しく思っちゃったくらい。
 
まあ、私はどうも誰にとっても話しやすい相手らしく、
初対面でも、老若男女問わず、
「誰にも言ったことないんだけど」 的な
黒歴史をカミングアウトされたり、
70代の男性が、
ほんとに他の人には絶対話さないような過去の話を
とうとうと語った後泣いてしまったり、
ということが多いんですが😓

まあ、それにしても、よく喋るなあ。 

私は彼に興味があるから、
話してくれれば嬉しいし、
話も面白いから、聞いてて楽しいし、
彼も喋って満足なら、それはそれで良かったけど。

あ、帰りはちゃんと改札口まで送ってくれました。

私が、改札から数メートル歩いて、
「ま、いるわけないか」
と思いながら振り返ってみると、
彼は、両手をポケットに入れて立ち、
こちらを見送ってくれていました。

私が振り返るかなんてわからないのに!

私が振り返ったのを見て、
大きくゆっくり手を振ってくれて、
まだ歩き出す様子もなく。

実は、結婚して以来、
夜飲みに出かけるなんて、ほとんどしたことがなく、
そんな遅く(23時過ぎ)に、駅にいることが、
とても怖いと思って不安な気持ちでいっぱいでした。

なので、
その堂々とした立ち姿を見た時に、
私は、なんだか彼の大きさに包み守られている気がして、
胸の奥から熱いものが込み上げ、
涙が出てきてしまいました。

今思い出しても、
その姿はとても温かく、
愛おしさに胸が震えます。

そして、彼という人の愛の深さを感じて、
また涙が溢れてしまうのでした。

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